人生何が起こるか分からない
今から6年ほど前のこと。
僕は外回りの営業をしていた。
そのときの上司はA課長。
気の良いお父さんみたいな存在の人だった。
一緒にランチに行くとコーヒーをご馳走してくれたり。
真夜中でもメールが来るのは嫌だったけど、素敵な課長だった。
課員とランチに行くことが多かったのだが。
その課長がいつも口癖のように言っていたのは「七味唐辛子ください」だった。
七味唐辛子おじさん
うどんには当然のように七味唐辛子を入れる。
味噌汁に七味唐辛子を入れる
しょうが焼きに七味唐辛子をかける
とにかく七味唐辛子をかけていた。
僕はもともと辛いものが苦手だ。
そんな課長を「変なおじさんだなぁ」と思いながら見ていたのを思い出す。
そんな僕にも転機が訪れるのだ。
さきいかのてんぷら
居酒屋のメニューでも、前のほうに載っている「さきいかのてんぷら」
とりあえずで注文するそれを、僕も当たり前のように注文していた。
その他に、枝豆、たこわさ、きゅうりの漬物など。
テーブルに運ばれてきた「さきいかのてんぷら」には小さな皿に入ったマヨネーズがついてきた。
それが普通と違ったのは、そのマヨネーズの上に七味唐辛子がかけてあったことだ。
勘違い、そして仲直り
よく食卓に並んでいる唐辛子は2種類ある。
一味唐辛子と七味唐辛子だ。
七味唐辛子と聞くだけで、ものすごく辛そうなイメージだった。
でも実際は違ったのだ。
唐辛子だけの一味唐辛子。
山椒や胡麻などをブレンドした七味唐辛子。
体積あたりの辛さは、一味唐辛子のほうが辛いのだ。
七味唐辛子がかかったマヨネーズ
「あれ、意外に辛くない」
今までの恐怖心はどこかへ飛んでいった。
ただの思い込み、ただの勘違いだったのだ。
山椒の香りは大好きで、うなぎはもちろんのこと、焼き肉にもかけて食べる。
いやいや、七味唐辛子には山椒が入っているではないか。
七味唐辛子、お前はスゴいヤツだ
いつの間にか七味唐辛子を追いかける自分
「すみません、七味唐辛子ありませんか」
いつかの課長と同じことを自分が言うようになっていた。
ブレンドされたスパイスが刺激をくれる。
たまに行く有名な牛丼やさんには七味唐辛子がおいてある。
今では流れ作業のように七味唐辛子を振り掛けるのだ。
辛いものは苦手だけど、いつの間にか辛味に挑戦するようになった。
といってもココ壱の1辛、2辛というレベル。
さきいかのてんぷらが、正確に言えばさきいかのてんぷらに付いてきたマヨネーズが、僕にスパイスの賑やかさを教えてくれたのだ。
いつの間にか自宅のスパイスラックには、七味唐辛子と一味唐辛子がペアで並ぶようになった。
僕はその会社を辞め、今は別の仕事をしているが。
七味唐辛子をかけている自分に気付くと"あのときの課長"を思い出す。