東京駅でのこと。
山手線から地下鉄に乗り換えて根津駅に行く予定だった。
東京駅と大手町駅は地下街でつながっている。大阪駅と梅田駅のようなものだ。
駅構内の看板を見たところ、「丸ノ内線はこちら」のような案内は見かけたが「大手町駅はこちら」という案内は探しきれなかった。
とりあえず丸の内口、日本橋口、八重洲口のどちらに行けばいいのか知りたかった。
誰かに聞いた方が早い。目の前は八重洲口の改札口。
改札口にいる駅員さんに聞いてみた。
「大手町駅に行きたいんですけど」
と。そうしたらこんな返答があった。
「何線に乗るんですか?」
残念ながら何線か、すぐに言えるだけの準備をしていなかった。
いつも、根津駅から大手町駅に乗り換えなしで行けることだけは覚えていたから、大手町を目指していたのだけど。
「何線かは、ちょっと分からなくて。根津のほうに行きたいんですよね」
駅員さんの回答にちょっとびっくりした。
「それなら千代田線ですね。丸の内北改札から駅を出て、右方向にある階段を下りてください。」
「根津駅に行きたい」と伝えると、千代田線だということまで覚えている。
タブレットや時刻表で調べるわけでもなく、さも当然のごとく案内してくれる。
千代田線は東京メトロだ。東京メトロの職員さんならいざ知らず、JRの改札に立っている駅員さんがそこまで覚えていることにびっくりした。
当初の予定では、出口を教えてもらったら、とりあえずそちらの方向に進んでいき、どこかに設置されているであろう看板を見ながら順に進んでいけばいいと思っていた。
それが一気に解決した。しかも通常の会話のレスポンスで。
あまりにスムーズに解決し、豊富な知識と適切な案内をしてくださった駅員さんに感謝。
でも、その時の僕が持ち合わせていた言葉は「ありがとうございました」だけだった。
もっと雑に案内されても、「丸の内北口改札のほうです」とだけ言われても、僕が最後に言うのは「ありがとうございました」だと思っている。
「ありがとうございました」に重みづけはできるのだろうか。言葉だけをフラットに捉えれば11音の言葉でしかない。
すごくありがとうと言いたいとき、どうやって伝えたらいいのか。その方法が分からなあったのだ。
もっと丁寧に自分の気持ちが伝えられたらよかったのにな。と思いながら大手町駅まで歩き、千代田線に乗った。
駅員さんにしてみれば、ただの業務の1つだったかもしれない。効率的に案内できるように覚えていただけかもしれない。ご自身が頻繁に使うので知っていただけかもしれないけど。
その配慮と案内があまりに華麗でスムーズ過ぎて。
ただただ「ありがとうございました」しか言えなかった自分、そこにアドオンできる要素を、しっかりと持っておきたいと思ったのだ。