Spotifyを契約してよかったと思うのは、ピアノ曲をたくさん聴けることだ。
知らない曲ばかりだけど、当たり障りない曲を延々と流してくれる。
ピアノそのものについて強い思い入れがあるわけではない。だけど少し特別な存在。
演奏する楽器を演奏者が持ち歩かない楽器。それがピアノ。ホールにあるそれを弾く。専任の調律師がいる場合もあるが、大抵の場合は調律したそれを弾くことになる。
コンディションなんて分からない。それがピアノなのだ。
自宅にはピアノがあった。小さな頃から近い存在だった。調律してから随分と経ったピアノ。特に低い音に違和感があった。
ピアノは音がブレない。鍵盤を押したその音しか出ない。ヴァイオリンのようにビブラートを意識してつけることもできない。まるで雨音のように音が鳴る。
倍音が云々など、難しい話はさておき。音のバランスは非常によい。
そのピアノの演奏を聴いていると。適度な広がりと、適度な奥行きを感じることができる。オーケストラのような厚みも迫力もないが、その素朴に仕上がった音が心地良い。
低めの安定した音の上で、高めの音が踊っているような。そんな演奏ができるのはピアノだけかもしれない。
そんなピアノのコンサートに行ったことがある。
1回目は高校生のころ。電気文化会館の地下にあるザ・コンサートホール。音大生の発表会のようなプログラムだった。
ハンガリー狂詩曲 第6番(フランツ・リスト)
の演奏に引き込まれた。
ピアノってこんなに面白い演奏ができるんだ、と。
その足でヤマハに寄って、楽譜を買ったのを覚えている。弾けるわけじゃないのに。
2回目は23~4歳のころ。浜松のアクトシティへ。
確か中ホールだったと思う。上原ひろみさんのコンサートへ。コンサートのチケットを買うのは初めてだったかもしれない。勢いで買ったそれを楽しみにしていた。
アクトタワーの展望回廊の運用が変わり、テンション低めのままホールに。
演出の全てというか、演奏の勢いに圧倒された。座席はずいぶんと後ろの方だったけど、本物の人は違うんだな、なんて。
同じ楽器が目の前にあったとしても、演奏者によって表現や色合いが全く違う。言い訳もできないくらい、平等に用意されているのがホールのピアノなのかもしれない。
その音が、ストレートで、心地良くて、ちょうど良くて。
草原の中にいるような気持ちにさせてくれたり、夜の海辺にいるような気持ちにさせてくれる。
オーケストラほどの表現がなくても、ずっしりと伝わるものがある。だから自然とピアノの音楽を聴いているようだ。本当に心地良い。
この感覚を大切にしていきたいと思った。